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法政大学 キャリアデザイン学部 教授 武石恵美子 何が真の「やさしさ」なのか?

最近、ワーク・ライフ・バランスや女性の活躍推進を進める企業の人事担当の方から共通にお聞きする問題があります。それは、出産や育児のための制度を整えてきたが、制度利用者の中には、制度を効果的に利用していない従業員がいて困る、というものです。たとえば、育児休業を子が3歳までにしたところ、制度をフルに利用しその間に第2子が生まれてトータルで長期間会社を休んでいる社員がいる、短時間勤務を小学校低学年までに延長したら短時間の期間が長期化して職場が困っている、といった内容です。

「女性にやさしい」制度というのが、本当に従業員にとって有意義な制度として機能しているのか、という視点から再点検してみる必要はないでしょうか。

育児休業や短時間勤務など、長い期間を設定すること自体、何も問題はありません。働く側からみれば、選択肢が増えるわけですから。ただし、休業や短時間勤務を長期間にわたって継続して利用することのデメリットについてもきちんと考えた上で、効果的な制度利用を選択していく、ということが利用する側には求められます。すなわち、長期化の休業や短時間の勤務は、フルタイムで働く人に比べると経験できる仕事の幅は狭くなります。また、職場にはそうした状況をフォローしてくれている上司や同僚がいます。自分自身のキャリア、そして職場への影響を勘案しながら、効果的に制度を利用するという姿勢が利用者には求められます。提供される制度はとりあえず使っておこう、ということでは、人事制度・施策の改善に水を差すことになりかねません。

しかし、これは制度を利用する(多くの場合は女性従業員の)側だけに問題があるわけではありません。なぜ自分の長期的なキャリアを考えずに短期的な制度利用に向かってしまうのかといえば、組織からの期待が感じられない、それを踏まえて自身のキャリアビジョンが描けない、という理由があげられます。その意味で、組織や上司の問題が背後には存在しているのです。自分のキャリアを考えて制度を効果的に利用している女性は、将来のキャリアの展望があり、そこから逆算して「今」が選択できるわけです。

女性は管理職になりたがらない、自分の仕事の幅を広げようとしない、短期的に物事を考える、という苦言をよく耳にしますが、実は、それは企業の女性に対する期待、あるいは上司の育成の姿勢、に問題があることが多いのも事実です。「女性にやさしい」という言葉は、妊娠や出産といった女性特有の問題の局面をとらえたときには必要ですが、「女性にやさしい」が独り歩きして、「女性は特別」という意識が、職場マネジメントに浸透してしまうと問題です。

女性のキャリアを局面でとらえるのではなくトータルで考えることのできる包容力、それが女性の力を伸ばす組織の「やさしさ」ではないでしょうか。

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